ここでは、初期の富士通のキーボードの歴史を、雑誌FUJITSU(1985/06号 p427~)、及び各種特許・実用新案の出願日、採用が確認されている製品の発売日などから追ってみようと思います。
尚、前者は主要な製品の沿革が大まかに言及されていますが、全てを網羅するものではないようです(例えば、FES-360形スイッチは一切出てきません)。また、出願日からの調査では、実際にそれを使った製品が出荷されたかどうかの確証は得られませんし、そもそも権利が成立しなかったものも含まれますが、どういう考えの元に開発を進めていたかを感じることはできそうです。よって、これらを突き合わせることで、ある程度の正確さを持つ年表を目指そうというものです。考察の資料としては十分でしょう。
以下、文書名を記載していないものについては、前述の雑誌FUJITSUを出典とします。
時期 | 文書番号・文書名 | できごと |
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1972年 | - | 研究所でFES-5形押釦スイッチを開発(リードスイッチ)。 |
1973年 | - | 須坂工場でプリンタやディスプレイ端末用キーボードの生産を開始。 |
1975年以降 | - | FES-8形シリーズを実用化(リードスイッチ)。銀行端末、ディスプレイ端末、POS端末などへ用途を拡大。 |
1977年から | - | FES-9(図より、縦型リードスイッチのなかで一番短いもの)を開発。約10mmの薄型化を実現。 |
1979年より前 | - | (図中にFES-300形スイッチの存在が示唆されている。シートキーの構造で示されていて、ショートストロークの板バネを用いている。説明には、『高信頼度、優れた経済性』とある。) |
1977/10/28 | 特開昭54-063279 押釦スイツチ | 板バネメカニカルスイッチの初出。 但し、現行のものとは少し形状が異なっていて、
また、第5図にキーボードの構成例が出ているが、なんとブロックキーボードそっくり。大きく異なる唯一の点は、スライダの支持にコイルバネを併用していること(つまり、板バネでスライダを支えている訳ではない!)。 |
1978/04/12 | 実全昭54-150428 フラットキーボード | 現在のFKB3000標準シートキーに相当するもの。 雑誌FUJITSUにも「メカニカルスイッチの最初の応用製品はシートキーボード」とあるので、整合が取れる。 |
1978/07/06 | 実全昭55-010234 押釦スイツチのドライブロツト | スライダを2段階に分け、キートップ結合部に台形の補強を入れるというもの。 字面だけ見ると、キーベースを使用するタイプのキートップの実用新案に見えるが、描かれている図は全く違う("+"部の根元を太くしている)。図の方はただの概念説明用であって、本気であの形の製品を作った訳じゃないと思うが…。 |
1978/09/29 | 実全昭55-049496 押釦スイツチ | メカニカルスイッチの改良。
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1978/10/04 | 実全昭55-052724 押釦スイツチ | スライダハウジングを取付パネルの手前方向(キートップ側)から脱着できる構造。 ブロックキーボードの重要な特徴がここで初出となる。 |
1978/12/11 | 実全昭55-085729 押釦スイツチ | スイッチを4ピンにした…というもの。 |
1979年にかけて | - | FES-4シリーズ(図より、クロスリードスイッチ)を開発。約10mmの薄型化を実現。 |
1979/06/06 | 実全昭55-177246 リードスイツチの取付け構造 | FES-4シリーズの実用新案。 この系列からスライダの形状が大きく変化している(キートップの嵌合部が"+"型から、キーベースと一体になった形状になった)。特に、スライダを支えるバネの位置がスイッチハウジング外に移動し、スライダの周りにコイルばねを巻くような形状になっている。これは板バネの最初の特許の使用例に書かれている構造とそっくり。 |
1979年 | - | メカニカルスイッチFES-301シリーズを開発。1985年時点での「主流」と明記されている。図中には、FES-300から「系列化」と書かれており、ロングストローク形のブロックキーボードとして描かれている。説明には「高信頼度、長寿命、優れた経済性」とある。 |
1979/06/11 | 実全昭55-178927 押ボタンスイツチ | FES-360シリーズスイッチの原型となるもの。 ショートストローク形の板バネメカニカルスイッチに、スライダハウジングと、追加の板バネをインサートしたスライダを装着して単独使用可能なキースイッチに仕立てたもの。 |
1979/10/13 | 実全昭56-059731 押釦スイツチ | FES-360シリーズの実用新案。 スライダ側の板バネを少し湾曲させることでスイッチ高を低く押さえた。 |
1979/12/10 | 特開昭56-096418 キーボードスイッチ及びその製造方法 | FES-360シリーズの製造方法。 内部構造の詳細な図があるので、参考用に。 |
1980/12/25 | 特開昭57-107521 押釦スイッチの製造方法 | FES-4シリーズの製造方法。 |
1981年 | - | データ入力を一層手軽で正確にできる多項目入力装置としてアイテムキーを開発。 ※イメージをざっくり言うとこんなの。このページでは深追いしない。 |
1981/03/11 | 特開昭57-148822 キーボード装置 | 初代FM77AVのように、スライダハウジングと取付パネル・外套を一体化した構造にするもの。BUBCOM80の構造に見えなくもない…。良く見ると、以前の構成(第1図)はスペーサで基板とフレームを止める構造になっている。 |
1981/05/20 | FM-8 | FES-360タイプを採用したことが確認できる製品の発売。 |
1981/06/16 | 実全昭57-198839 キ-トツプ嵌合構造 | 後にPBT製のキートップ等で使われることになる、ツメを使う肉抜きタイプのキートップのもの。 |
1981/09 | BUBCOM80 | ロングストロークのスイッチを使用したと思われる製品の発売(非DINタイプ??)。 |
1981/09/30 | 実全昭58-049829 ブロツクキーボード | 名称の初出だが、この請求範囲は現在の製品では使われていない。 スライダが板バネと触れる部分にU字形の溝を作ることでストロークを維持したまま薄型化しようというもの。ついでにハウジングを基板にも接触させる構造の原型が見れる。 |
1981/12/15 | 実全昭58-090618 押釦スイッチ | 現行のハウジングの原型となるもの。 スライダハウジングに板バネが納まる溝を設けて薄型化を実現しようとしたもの。但し、ハウジングとスイッチが一体化した構造で示されている。 |
1982/08/23 | 実全昭59-031725 メカニカルスイツチの防じん構造 | 密封シートを粘着しない方式。つまり、透明シート版の初出・原型。 |
1982/09 | N860-2505-T002 | ネット上で観測可能な範囲では、最古とみられるDINタイプの製造年月。 後述の実全昭59-099325が反映されていない(スライダハウジングにネジ穴が無く、取付パネルを直接ネジ止めしている)。配列もFM-11/FM-16sとも一致しない(JISカナ刻印があるのにカナロックLEDが無い)し、そもそもまだこれらの発表前。シリアルナンバも異様に小さいので…もしかして試作機?? |
1982/11 | FM-7 FM-11 | DINタイプのブロックキーボードを採用したことが確認できる初期の製品の発表。FM-7の記事によれば「富士通、パソコン3機種を開発―1月から月産計3万台」なる見出しが書かれているので、実際に製造・出荷が開始されたのが1983/01以降とすれば、↓の実用新案の時期とも整合が取れる気がする。ところで「3機種」って、あともう1機種は何だ??? FM-16sか?(16βではない、海外専売モデル) |
1982/12/24 | 実全昭59-099325 キ-ボ-ド | 現行のハウジングのもの。 スイッチと一体化する構造ではなくなった。別部品のスペーサを無くし、ハウジングにネジ穴を設けて兼用させるようになった。 |
1982年 | - | メカニカルスイッチを使ったタイプライタキーボードを開発。ロープロファイルキーボード(エルゴノミクスキーボード)を製品化。DIN規格に準拠した薄型でスナップタッチのシリンドリカルキートップを使用。パソコンFMシリーズ、FACOM 9450-II、OASYSシリーズなどに採用。図中では、この世代を「ブロックキーボード」と記載。 |
1983年 | - | ローエンド市場への対応として、メンブレンキーボードを製品化。独自のアイデアによる板バネで、タイプライタキーボードなみのストロークによる抜群のキータッチを備える。 |
1983/04/08 | 特開昭59-186214 押釦スイツチ | メンブレンキーボードの特許。 米国特許の方が図が豊富。 |
1983/04/30 | 特開昭59-201325 熱かしめによる部品間締結方法 | 製造時に板バネとシートをスイッチ筐体にかしめる方法について。 図中のスイッチの形状が完全に今のものと同じになった。シートの止め方も、引っ掛け足2 + リベット止め2の4箇所になり、板バネも止め部追加に伴って形状変更。 |
1983/04/30 | 実全昭59-170935 押ボタンスイツチ | 静音タイプのスライダ。 絵は少々異なるが、構造はよく似ている(実際の静音スライダでは、突起を設ける代わりに、腕部をわずかにカーブさせて先に接触するようにしてある)。 |
1983年 | - | サブリメーション印刷のキートップ(PBT製のもの)が登場。 |
- | - | (これ以降は調査未完) |