富士通の板バネ式メカニカルキーボードについてのまとめページ -- 各種考察

FMR60KB201

スイッチの型番について

DINタイプのブロックキーボードに使われるスイッチの型番は、年表にも書きました通り「FES-301形」という名前のようです。

一方、出典元の記事では前身となる「FES-300形」の存在が図中で示されていますが、こちらはショートストロークタイプと書かれていて、これよりシートキーのスイッチはこちらであるかのように読み取れます。しかし、現行のFKB3000シリーズシートキーのカタログによれば、スイッチ名は「FES-301S」となっていて一致していません。

じゃあこれは何なのか…というところですが、FES-300形は初期のシートキーだけで使われたスイッチで、あるタイミングからFES-301S形に切り替わった…という可能性を考えたいと思います

出典元の雑誌FUJITSUによれば、FES-301形への変更に際して「系列化」なる文言が書かれています。また、年表より1979年はFES-360形の実用新案が出願された時期です。つまり、それぞれ個別にスイッチを設計するのではなく、同一構造のスイッチを用途別に展開できるように改良が施され(現に、同実用新案ではショートストロークタイプのスイッチを共用できることが売りになっています)、その際にFES-301シリーズとして整理され、そのショートストローク版単独スイッチがFES-301Sになったのではないかと考えます。また、同雑誌FUJITSUの図には、FES-301の特徴として「長寿命」が追加されています。ということは、このタイミングで1978/09の実用新案が反映された可能性もあります。

…しかし、こういうのを書くのに、図書館からしか参照できない資料頼みってのもツライものがあります…。数百ページの雑誌の中のたった2ページだけなんですけど、「引用」ということでスキャンをUpさせてもらえんもんですかね… >FJ2さん。

スイッチ型番と(初期の)PART No.の対応について

年表を書いたり実物の写真を探したりしていたところ、どうやらスイッチの型番とPART No.に法則性がありそうなことが分かってきました。具体的には、N860-直後の先頭桁がスイッチの型番と対応しているようです(先に使用されている場合は、型番の他の桁から適当に抜いてくるなりして割り当てている模様です)。以下にまとめてみたいと思います。

スイッチ名実例/PART No.メモ
FES-8形N860-8282-T002よく見ると↓よりスイッチ長が長い。
FES-9形N860-9201-T001よく見ると↑よりスイッチ長が短い。
FES-4形N860-4038-T021クロスリードタイプと呼ばれるもの。
シートキー(FES-301S形?)N860-3141-T001これは順当。
FES-360形N860-6116-T011360の6から取った?
非DINタイプ(FES-301形?)N860-1344-T001301の1から取った?
DINタイプ(FES-301形)N860-2882-T001他3も1も使えないから仕方なく2を?

リードスイッチタイプの型番と実物の対応付けの根拠は、年表で参照した雑誌FUJITSUに記載の図と本文に依ります。

しかしながら、ここでメンブレン板バネやピアレス等のPART No.を思い出すと、どう見てもこの法則に当てはまりません(どちらもFES-4形になってしまう)。これは完全な推測ですが、DINタイプの登場前後で付番規則が変更された可能性を考えます。恐らく空きが無くなることが見えてきたので、番号体系を整理し直したのではないでしょうか。で、変更前のシリーズはそのまま以前の規則で継続し、結果残ったのがシートキーだったのでしょう。よって、これ以降(80年代中頃以降)に開発されたシリーズについては、この規則は当てはまらないと思います。

DINタイプのブロックキーボードも規則変更前のものかと考えていましたが、よくよく見ると番号の根拠が謎ですし、シートキーと異なり、カタログ掲載のカスタムキーボードの名称が"FKB2500"と中途半端な番号から始まっています。さらには、N860-2930を名乗りながらレバーアクション式のスイッチを持つ機体まで存在するそうです(このタイプの内部構造はDaniel Beardsmore氏のページで見れます。キーマウント方式はDINタイプの照光キー等と同じのようです。接点自体は皿バネによる多接点構造らしく、見た目は大きく違いますが、FES-301からの連続性を感じることができます)。以上より、2xxxは「DIN規格に準拠したタイプライタキーボード」全般を表す番号であって、枝番別に複数の構造が存在できるよう整理されていた可能性を考えます。そして、結果的にDINタイプのブロックキーボードが数多く設計されたために空きスペースも転用され(28xx、29xx、23xx等)、ほとんどDINタイプ専用の番号かのような状況になってしまったのかもしれません。これより2xxxは必ずしもDINタイプを表すものではない可能性があることになりますので、入手の際は注意が必要です(レバーアクションタイプは目撃例が少ないようですので、遭遇することは稀でしょうが…)。

シリアルナンバのDate Code(製造年月コード)

FMR60KB201 KEYBOARDシール

Daniel Beardsmore氏によれば、富士通製キーボードのシリアルナンバ先頭にアルファベットが含まれる場合、それが製造年を表すコードになっているらしいことが知られているそうです。具体的には、1985年を"A"(設立50周年ですな)、1986年をB、…と順番に割り当て、"Z"の次は再び"A"に戻るようです(上記のリストを見る限り、1985年以降とそれ以前でシリアルナンバの桁数が違うようなので、その判別はできそうです)。

私の手持品はほぼ全て富士通がリテール販売していた代物で、この場合、外套のラベルには製造年月が"YYYY-MM"表記で打刻されています(シリアルナンバは数字のみ)。一方、中を開けるとお馴染みの「KEYBOARD」シールが出てきまして、こちらには製造年コード付きのシリアルナンバが記載されています。つまり、これらのキーボードでは可読な製造年と製造年コードの対応が確実に取れますので、この信憑性の担保に大いに役立つのではないかと考えられます。

ということで、早速手持ち品を調査してみました。結果は手持ち品の紹介のところに記載しましたので、そちらをご覧下さい。

結果としては、既知の法則と完全に一致しました。手持ちで一番新しいのは2005年製(U)ですが、ここまではちゃんと適用できるようです。このまま続いていれば2011年に再び"A"へ戻っているはずなのですが、まだここを跨いだ製品を持っていないため、この前後以降どうなったのかは不明です(1984年以前みたいに区別ができるのか…とか)。

ところでこのシリアルナンバを改めて見ますと、2桁目にも法則性があるように見えます。具体的には製造月と対応しているようで、1~9月はそのまま数字が入り、10~12月にはX~Zのアルファベットが入るようです。但し、手持ち品のFMR60KB101だけは11月製造なのに"X"(10月)となっていますが、キーボード部分の製造~完成品組み立てまでの間で月を跨いだと見なせば辻褄が合うので、ひとまず良しとしています。

ここまでの結果を再度整理します。

これを使うと、例えば上記の写真の場合(E4)は1989/04製造…と読むことができます。OEMモデル等では製造年月の手がかりがこれしかない可能性が高いので、そういったものがいつの製品かを特定するのに役立つはずです。

ブロックキーボードに至るまで

事実関係の調査は年表の方で概ね示せたと思いますが、改めてこちらで整理して記載しておきたいと思います。

板バネスイッチの最初の特許は1977/10に出されていますが、このタイミングで既にブロックキーボードの原型となるような「実施例」が書かれていて、既にこのプランがあったことを伺わせます。但し、スライダの外側にコイルばねを巻いていて、つまりアクチュエータだけでスライダを支えている訳ではないようです。

この時期の富士通製スイッチはFES-9形までしか無かったことに注意してください。つまり、キートップのマウント方法は未だに"+"形でした。台形タイプのスライダを使うタイプもこの特許で初めて出現しているという訳です。この変更はコイルによるスライダ支持の都合で行われたものと考えられ、実際にFES-4形では、スライダ外部にコイルばねを巻く構造と、キーベース一体のスライダがそのまま採用されています。一方で、より後発のFES-360形ではキーマウント方法が"+"形に戻っています。こちらはコイルばねを持たないので、あの構造にする必要が無かったということなのでしょう(但し、キートップを両者で共用できるようにするためか、キートップ自体は台形マウント対応とし、"+"形で使うにはキーベースを追加する方法になったようです。後者の方が部品点数で不利な構造なので、いずれは"+"式を放棄する算段だったのかもしれません)。

ただ、この外部コイルタイプのブロックキーボードは物にならなかったのだと思われます。板バネスイッチの最初の応用製品はシートキーで、その後のFES-360形の実用新案の段階でも、第2図(従来のロングストロークの押釦スイッチの側断面図)では、外部コイル無し・"+"形キートップマウントと変化しており、さらに言えばこれは非DINタイプの構造とも少々異なります(非DINタイプは台形マウントです)。特にこのFES-360形の実用新案によると、従来形(つまりブロックキーボード風のもの)の問題として基板~取付パネル間の間隔保証に難があることを挙げていて(この段階では、スライダハウジングが基板と接触しない構造の為、別にスペーサを必要としていました。スペーサから離れた場所ではパネルがたわみますので、それでストロークが変化する点が問題視されたのでしょう)、それらの改善も含めてFES-360形のスタイルに舵を切ったらしいことが読み取れます。よって、ブロックキーボードのプランは、この段階では一旦諦められたものだったのかもしれません。

ではこれがなぜ復活したのかというと、恐らくは薄型化に有利だった為です。1981~82年にかけて、ブロックキーボードの薄型化を意図したような実用新案が相次いで出願されています。最終的に、スライダハウジングに板バネを納める切欠きを入れることで高さを抑え、これにビス穴を設けてスペーサを兼用する構造(つまり、全ハウジングが各々基板と接することで間隔を保証する)としたことで前述の問題を解決し、DINタイプのブロックキーボードとしてプランの実現をみたのではないかと考えられます。

一方で、このブロックキーボードの構造は、キーボードの設計製造自体を請け負えるが為に採用できるプランです。単独のスイッチだけ販売することができるように、FES-360形がそのまま残ったと考えることもできそうです。

ただ、以上の考えに沿うと、非DINタイプの存在意義が全く不明です。薄型化も実現できていませんし、スペーサを必要としている構造もそのままっぽいので、FES-360形の実用新案で語られた従来型の問題点を何一つ改良できていないように見えます。強いて言えば、FES-360形よりもトータルのパーツ点数を減らせる可能性があるので、もしかしたら安価なカスタムキーボードとして無理やり製品化してしまったのかもしれません。つくづく全方向にミステリアスさを放つ存在ですねぇ…こいつは…(そもそもBUBCOM80で使われてたっぽい時点でもうね…)。現在知り得ている情報だけだと、こいつを含めて製品展開を推察するのは難しいと思いますので、一旦ここで打ち止めにしようと思います。

ここまでの考察を一旦まとめます。

スライダの変遷

まず、スライダに関して少なくとも6種類存在することは「構造の解説」で述べました。ハイプロ用とロープロ用の区別は当然されているようですが、しかし、各括りの中では、同一の型番(PART No.含)を名乗った製品であっても、必ずしも同じスライダを採用しているとは限らないようなのです(FMV用のキーボードは外部にリビジョン表示がありますが、FMR用等にはありません…)。

私が確認できたものでは、少なくともFMV-KB611とFMR60KB111の二つが該当しました。特にKB611では、一度明確にリビジョン変更が行われており(03A)、それ以前とそれ以降で使われているスライダが変わっていたり(PTFE→PBT)、キートップの印字方法や材質が変更されています(サブリメーション印刷→レーザ印字)。

以上のことから、製造年月を調べてスライダの変わり目を見つけることができれば、実際にキーボードを触らずともスライダの種類に検討をつけることができるのではないかと考えました。「構造の解説」などでも述べたように、スライダによる打鍵感触の変化は非常におおきなものです。なので今後の事を考えると、予めまとめておくことは意義があると思います。

それでは早速調査開始です。まず我が家に存在する、キーボードの製造年月と採用されたスライダを整理すると、以下のようになりました。

非静音タイプ:FMR60KB101(1988-11)、FMR60KB211(1989-05)
非静音タイプ(初期型):FKB-2500(恐らく1984年) → 今回は調査対象としない
静音タイプ(PTFE):FMT-KB207(1992-12)、FMV-KB211(1995-07)
静音タイプ(PBT):FMV-KB611 Rev.03A(2005-12)

以上をまとめます。

静音タイプ(PTFE)への変更時期:1989-05~1992-12の間
静音タイプ(PBT)への変更時期:1995-07~2005-12の間

…うーん、間隔開き過ぎですねぇ(^^;;;

これでは使えないので、インターネット上で出回っている他の情報を参考にしてみましょう。FMR60KB211のJISキーボード版であるFMR60KB111に関しては、二人の方がそれぞれ違うスライダの写真を公開されている(各自検索してみて下さい)ので、それを参照してみますと、非静音タイプを使用しているものが1990-02、静音タイプを使用しているものが「90年製」とあります。90年だけでは限定できないので、大きく見積もって1990-12だとすると、こんな感じです。

静音タイプ(PTFE)への変更時期:1990-02~1990-12の間

これくらいのマージンなら、まだ何とかなりますよね?(何

また、このあたりで富士通のロゴが現在のものに変わったようなので、少なくとも静音タイプを狙うのであれば、新ロゴが印刷されたキーボードを見つければ確実です。非静音タイプに関しては、上記90年製の写真が旧ロゴであるため、ロゴだけで判断するのは危険です。

一方、FMV-KB611に関しては、内部をバラして写真を公開されている方が妙に少なく、正確な判断ができません。

ただ、上でも述べたように、明確にリビジョン番号の変化が確認されていますので、大きな変化があったとすればその辺りではないかと思うのですが、どうでしょう(同時期に、ほぼ同等の機構を持つリュウドのRboard Proが生産終了になっているのですが、その理由がサブリメーション印刷の継続ができなくなったからだそうで、これと全く同じタイミングで行われた可能性が高いのではないかと思います)。一応、この時期を仮のスライダ変更時期としておきます。

これらをまとめておきます。

静音タイプ(PTFE)への変更時期:1990-02~1990-12の間
静音タイプ(PBT)への変更時期(仮):2001年頃?

ところでこの静音タイプのスライダですが、1988年製のFMR-30BXのキーボード(メンブレン板バネ)では既に使われていました。同様にメンブレン板バネを採用するFM-TOWNS用のテンキーレスキーボードでも当初(1989年か?)から採用されていたようです。よって、この法則はDINタイプのメカキーに限定した話と考えてください。一応、これらの関係に関して、以下のような仮説を立ててみました。

こんなところでしょう。ここで「廉価設計」と記したのは、FMRに対するFM-TOWNS/FM-77シリーズの立ち位置、樹脂の使用量減少からです。